皮肉にあふれた一筋縄ではいかない作品。真面目に考えすぎているときに読みたい(猫のゆりかご レビュー)

小説

猫のゆりかごは、アングラ作家、カルト作家として有名だった

アメリカ出身の作家カート・ヴォネガット・ジュニアが書いた小説です。

この本を最後まで読んだとき「………ん?」

頭によぎってくる言葉を思い返しても「………何を読んでたんだっけ?」

予備知識なしで読んだ人はたいていこれなんじゃないかな、ってくらい、独特の複雑さがあります。

そして最初からもう一度読んでみようか、、と開いたはじめのページにあるのはこの言葉。

「〈フォーマ〉を生きるよるべとしなさい。それはあなたを、勇敢で、親切で、健康で、幸福な人間にする」

『ボコノンの書』第一の書第五節
猫のゆりかご(カート・ヴォネガット・ジュニア著)より

フォーマとは、無害な非真実のこと。

この話に真実は一切ないということを言われてオチが付くのでした。

1周と1ページまで読んで、初めてこの本がじんわり好きになっていくのを感じました。

最近真面目に物事を捉えすぎていて、窮屈な毎日に感じる方は、

なにもかもはそんなに意味はない、自分が一生懸命に守って大事にしているものもそうかもしれない。

そんなことに気が付けます。

また、フォーマの存在の大切さは、この本を読むことで教えてもらえます。

今日はこの本を勧めてくれた友人に感謝しながら、レビューしていきます。

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猫のゆりかごはこんな話

この物語は化学物質”アイス・ナイン”をめぐる話。

アイス・ナインはあらゆる液体を常温で個体に変えてしまう、人類を滅亡に追いやる物質のことで、現在も実在するかどうかは不明(とされている)。

登場人物はそこそこいますが、冒頭が読みやすくなる5名を抜粋して紹介します。

  • ジョーナ(ジョン)…主人公。ジャーナリストで、現在は「世界が終末を迎えた日」を執筆中。執筆にあたりハニカー一家に接触するところから物語が始まる。
  • フィーリクス・ハニカー…原子爆弾の生みの親であり、アイス・ナインを作ったとされる科学者。既に亡くなっている。以下3人は彼の子供。
  • アンジェラ・ハニカー…16歳の頃に母を亡くしてから、好きだったクラリネットを辞め、父と兄弟のために母代わりとして家事をしてきた。
  • フランクリン・ハニカー…父の葬式後に失踪し、2年前から消息不明。みな死んだものと思って諦めている。
  • ニュート・ハニカー…生まれつき身長が低く、4フィート(121.92㎝)しかないと本人はいう。自身を「こびと」と呼び、他者からもそう呼ばれる。ジョーナの出身大学に通っているが、雲行きは怪しいようす。

物語を語る上で外せない存在「ボコノン教」

ボコノン教は、ライオネル・ボイド・ジョンスンがつくったとされる宗教。

文中にはボコノン教用語がふんだんに使われています。

宗教観は実際に読んで雰囲気をつかんでいく方が楽しいので、ここではボコノンの書に書いてあるワードの解説を。(ふーんって感じで読み飛ばしていただいてOKです。ただ読んでいる最中はこの用語集があるととても参考になるので、是非見ながら読んでください)

  • フォーマ:無害な非真実
  • カラース:神の御心をおこなうチーム
  • カンカン:カラースの中に組み入れる道具(主人公が執筆している『世界が終末を迎えた日』もこれにあたる)
  • シヌーカス:人生の巻きひげ
  • ワンピーター:カラースの軸、ワンピーターのないカラースは存在しない
  • デュプラス:わずか2人で構成されるカラース
  • ウィンディット:ある人間がボコノン教の方向へ一押しされること
  • グランファルーン:無意味な連帯感、儀式
  • ランラン:人々をある思考の路線からそらそうとする人

わたしはここが好き!

じわじわ感じる多方面での皮肉が癖になる。これに尽きます!!!

皮肉①:世界を滅亡に導く人間が純粋な探求心をもつ科学者

世界を滅亡させるかもしれない物質を作ったフィーリクス・ハニカー教授は、科学者らしいといえば科学者らしい、他のことには一切無頓着な人間。爆弾が投下された日も、書斎で紐をもてあそんであやとりをしていた描写からも感じ取れます。(ちなみにあやとりは英語で”猫のゆりかご”。本作の題名)

ただ、この人に悪があるか、と言われると難しい。

教授がノーベル賞を取った時のスピーチから人柄の純粋さがあるれているから。

“みなさん。わたしが今こうして、あなたがたの前に立っているのは、春の朝、学校へ行く八つの子供みたいに、いつも道草ばかりくっていたからです。何でもいい、立ち止まってながめ、なぜだろうと考える。何であってもいい、そしてときにはそこから学ぶ。わたしはしあわせな人間です。ありがとう”

猫のゆりかご・教授がノーベル賞を取った時のスピーチより

こんなに素敵なスピーチをする人が原子爆弾を作り、アイス・ナインで人類滅亡へ導いてしまう…

皮肉②:アイス・ナインに人生を狂わされるハニカー兄弟たち

現在の原子爆弾と同じように、国家単位でアイス・ナインをめぐる冷戦が続いています。

父の作ったアイス・ナインによってハニカー兄弟たちも人生単位で巻き込まれていく…

傍からみる幸せにも、こんなに皮肉が隠されています。

皮肉③:実体のない宗教。何ともわかりやすいフォーマ

作中ではボコノン教を説いたり、学んだりするものは鉤吊りの刑に処されます。

教祖のボコノンにも賞金首扱い。

しかし、実態は国民全員がボコノン教徒であり、鉤吊りもほとんど行われていません。

この空虚な宗教観に加えて、文中でボコノン教の用語が飛び交うので、物語がより奇妙で煩雑になっていく。ここが一番皮肉の効いているポイントだと思います。

ロアが好きなボコノン用語はグランファルーン!

主人公と同じインディアナ出身だと知った人物が、”インディアナっ子はみんな立派でいい人なのよ!”的に同一化・連帯化して主人公が辟易する印象的なシーンがあります。

“グランファルーンを見たいなら、風船の皮を向いてごらん”

猫のゆりかご(カート・ヴォネガット・ジュニア著)から引用

これから先の人生、これ意味あんのか…?なことがあったら、このことを思い出すことにします。

あなたにもきっとぴったりなボコノン用語があるんじゃないかな?と思います✨

まとめ

多方面への風刺とブラックユーモアにあふれた”猫のゆりかご”は、

物事を真面目に受け取りすぎて生きにくさを感じたときにより染みる作品です。

いまあなたが囚われている、大事なものがたくさん詰まった箱の中身は、もしかしたら空っぽかもしれない。そんな可能性に気づけます。

気付いたあとは、本の一番はじめのページにもどり、読むだけです。

「〈フォーマ〉を生きるよるべとしなさい。それはあなたを、勇敢で、親切で、健康で、幸福な人間にする」

『ボコノンの書』第一の書第五節
猫のゆりかご(カート・ヴォネガット・ジュニア著)より

まさに”定められていたとおり”この本にどっぷりと浸かりました。

ここまで読んで、ボコノン用語が気になったあなたはきっとこの世界にハマります。

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